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政策学会講演会(レポート)
『一人ひとりに「つながり」と「経験」を ~ しんどさを抱える高校生への支援の現場から ~』

テーマ『一人ひとりに「つながり」と「経験」を ~ しんどさを抱える高校生への支援の現場から ~』
講師今井 紀明 氏
日時2018年6月26日(火)16:40~18:10
会場新町キャンパス尋真館(Z20)

通信・定時制高校に通う高校生を支援する認定NPO法人「D×P」(ディーピー)理事長の今井紀明さんをお招きし、公開講演会を開催しました。

今井さんは高校生のとき、イラクの子どもたちのための医療支援NGOを設立。当時紛争地域だったイラクへ渡航し、武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと、大きなバッシングを受けました。
そうした経験から、「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」をつくりたいと2012年にNPO法人D×Pを設立。
不登校経験・経済的困難、発達障害など、さまざまな「しんどさ」を抱える高校生たちに、「社会関係資本(人とのつながり)」と「成功体験(「できた!」と思える経験)」の2つを届ける活動を関西中心に行っています。

今回は今井さんより、NPO設立に至るストーリーと活動の内容と成果、そして学生に対するメッセージなどを語っていただきました。
*同志社大学 政策学部「NGO・NPO論」(佐野淳也)の公開授業 として実施しました。

1) 通信/定時制高校に特化した授業プログラム

今井さんが理事長を務める認定NPO法人「D×P」では、主に通信制・定時制高校に通う高校生に的を絞った支援を行っています。
そうした高校生たちは学校になじめず不登校になったり、中退してしまった経験を持つ場合も多く、さらにその背景にはひとり親家庭や貧困といった様々な社会課題があります。
それに対して「D×P」では、『クレッシェンド』と呼ばれる通信/定時制高校に特化した授業プログラムを実施しており、大きな成果を上げています。これは「コンポーザー」と呼ばれる社会人・大学生ボランティアとの間の対話を軸にした授業であり、高校生は様々なオトナの過去と現在の姿を知りながら、自分の未来を考えていきます。
「否定しない」「様々なバックグラウンドから学ぶ」「年上・年下から学ぶ」という基本3姿勢を大切にした少人数授業を通して、高校生たちは自分の価値に気づき、未来に対する前向きな意欲を培うことができるのだそうです。
現在、このコンポーザーには20~45歳の約250名が参加しており、「しんどさを抱えた子だからこそ、大きく成長してゆける」「高校生は、大人が驚くほどの才能と可能性に溢れている」ことに気づき、大人たち自身が多くを高校生から学んでいけるのだそうです。

講演内容記録(グラフィック・レコード)①  作成:奥野美里 講演内容記録(グラフィック・レコード)① 作成:奥野美里



2) NPOとしてのありかたと存在意義

こうした通信制・定時制高校に通う高校生へのキャリア支援については、行政からもまた企業からも圧倒的にアプローチが不足しているのが現実。制度の谷間になっていたり、またビジネスとして成り立たないのがその原因ですが、だからこそ「そこにNPOが取り組む意義がある」のだと今井さんは語ります。
そしてそうした事業を成り立たせるために、D×Pでは財源の多くをスポンサー企業などの寄付金や一般の会費によって賄っているとのこと。また「何かやってみたい!」という高校生たちのチャレンジに対し、コワーキングスペースを設置したり、さらにクラウドファンディングによって支援する取り組みを行っているそうです。
このように、行政や一般企業ではなかなかつくることのできない、「みんながみんなを支える『市民的公共性』のプラットフォーム」を、通信制・定時制高校に通う高校生へのキャリア支援というテーマに即して創り上げているところが大変おもしろく、NPOならではの可能性を感じました。

講演内容記録(グラフィック・レコード)②  作成:奥野美里 講演内容記録(グラフィック・レコード)② 作成:奥野美里



3) 学生たちの感想

聴講した約250名の学生からは、今井さんの生き方への共感として「人質事件に遭ったことは人生の転落ではなく、いまのNPOを始めるきっかけだった。これから社会に出て挫折しても、チャンスと思えるようにしたい」との感想や、「中退や不登校を経験した生徒は心を開くのに時間がかかると思うが、真剣に向き合っている姿が非常に素敵」との声が寄せられました。
また「途上国の子どもより日本の若者の方が希望や夢がないケースも多い。将来の可能性を10代からつみ取ってしまう社会の仕組みになってしまっている」「アルバイトの塾講師をしているが、生徒の一人は通信制高校に通う20歳の女の子。学力はまだまだだけど、すごく頑張っている。社会全体が彼らの可能性をもっと信じるべき」との感想もありました。
さらには「他人の考えを否定しないのは、非常に重要。『全体を救うアイディア』は、常に多様性から生まれる。『否定と批判』は、全く別のものであることを常に意識しなければ」との感想もあり、今井さんとD×Pの活動から、今後の社会やキャリアに対する多くの示唆を受講生たちは受け取っていました。

(政策学部准教授 佐野 淳也)

政策学会講演会

佐野 淳也