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対談 山根裕子×真山達志

真山対談Talk about Policy 山根裕子×真山達志
山根裕子(やまねひろこ)政策研究大学院大学教授
山根裕子
東京大学教養学部を卒業後、エール大学で修士、パリ大学で博士学位を取得。国際的に著名な競争法、国際法、EU法研究者である。 ベルリンの壁崩壊後、中・東欧諸国の市場経済への移行を支援している欧州復興開発銀行(本部ロンドン)の総裁顧問を務めた。 著書に『合併審査ー米欧の事例と日本の課題』(NTT出版)、『経済交渉と人権』(中公新書)など多数。
人々の目的意識や主体性の希薄さが現代の日本の不透明さや閉塞感をつくっているのかも。
山根裕子、真山達志
真山:ヨーロッパをはじめ、世界各地で活躍されてきた山根先生は、今の日本をどのように感じておいででしょうか。
山根:日本の方は、個人として接すると、優しくて思いやりのある人が多いのですが、組織の一員として見たとき、あるいは仕事上で接したときに、枠にはまった融通のきかない人になってしまうことが多いようですね。自分の行いが社会の人に対していかに影響するのか、相手にどういった負担と利益を生み出しているかといったことを考えないで、決められた手段で決められたことを機械的にこなすだけでは、他者に対して、あるいは会に対して優しさや思いやりがあるとは言えません。
真山:そのような行動様式を生んでいる原因は何なのでしょう。
山根:いろいろ考えられますが、自分の仕事や活動の目的が何か、果たすべき役割が何なのかをあまり考えていないことが大きな原因だと考えられます。与えられたことを指示どおりに処理することが仕事のすべてだという発想がまだまだ根強いようですね。いわゆるマニュアル人間になっているのです。EU統合の舞台裏を見た経験からいうと、確かにこれだけの大事業となると国家の思惑や政治的な駆け引きで動くという側面は否定できませんが、それでも、関わっている一人ひとりが、自分にとっての真実を探求し、主体的・自発的に関わっているように見えました。
真山:そうですね、いい意味で「個」が強いというか、だからこそ仕事にやりがいが生まれるのでしょうし、困難も克服できるのだと思います。では、具体的に日本ではどのようなことが起こっているのでしょうか。
山根:グローバル化が進む中で、日本の社会や経済もグローバル・スタンダードに合わさなければならないと言われています。そしてそのために制度改革や法律の改正が行われています。規制緩和もそう。ひとつ言えることは、その時に改革それ自体が目的になってしまって、何のために改革をするのかがほとんど吟味されていないことです。改革の理由を聞かれると「外国からの強い要請がある」とか「グローバル化は時代の流れだ」といった他律的な答えが返ってくることが少なくありません。厳しい言い方ですが、新しい制度を作ろうという時に、目的を持たずに、あるいは明確な問題意識を持たずに、「外圧」を理由にしているようでは、日本の将来はおぼつかないですね。
理論やモデルを、ただ知識として修得するのではなく、實社会でいかに応用していくか、が大切
真山:ではこの状況を変えるために、日本の社会にとって何が必要とお考えですか。
山根:社会的に意味のある決定をするには、組織やチームによる考察と対応が必要です。最終的に決定し責任を取る人はひとりでも、多くの人がその責任者をサポートすることになります。ところが、サポート役の人たちが指示を待って動かず、型どおりの対応しかしなければ、サポートどころか足を引っ張ることになってしまいます。自分の置かれている状況を客観的に把握し、自分の意志で選択をする意欲と能力が必要なのだと思います。
真山:なるほど。そうすると、政策学部において養成しようとしている「問題発見能力」を持った人材というのは、まさしくこれからの日本で必要とされる人材ということになりますね。まぁ少々、我田引水ですが(笑)。
山根:本人の自覚がないと「問題の発見」はできません。そのトレーニンを積むことにより、能力が培われるのだと思います。外国で仕事をして痛切に感じるのは、企業活動のグローバル化にもかかわらず、意識の上で日本はまだまだ孤立しているし、そのことに気づいてさえいないこと。自分も他人も何を考え、問題にしているのか本当には理解していない。それは、決められた枠組の中に安住しているからだと思います。なぜ日本をこれほど閉ざしたままにしておいたのか…。若い人にはもう少しよい状況が生まれればよいが、と思います。
そのためにも、大学は自立した知性と判断力を培うことができる豊かな教育の場であってほしい。
真山:本学の政策学部では、難しい課題にあえて挑戦し、問題発見に必要な能力アップのためのトレーニングを繰り返し行うつもりです。そして、社会科学の理論やモデルを、単に知識として修得するのではなく、問題発見や問題解決のために応用することを学んでもらおうと思っています。
山根:実現できると素晴らしいですね。それこそが今の社会に最も要求されていることなのではないでしょうか。人々の目的意識や主体性の希薄さが現代の日本の不透明さや閉塞感をつくっているのかも。理論やモデルを、ただ知識として修得するのではなく、実社会でいかに応用していくか、が大切。