こちらに共通ヘッダが追加されます。

TOP > 政策最新キーワード

政策最新キーワード

町村総会の実現は不可能か

武蔵 勝宏 投稿者 武蔵 勝宏 : 2019年3月1日

 今年は年度当初から統一地方選、そして、7月には参議院選と大きな選挙が続く選挙の年だ。両選挙が鉢合わせするのは最小公倍数から12年に一回、例年その年の干支はイノシシなので、政治学では、この年の参議院選挙で投票率が著しく低下することを亥年現象と呼ぶ。前回の2007年では民主党ブームもあり、投票率こそ低下しなかったものの、自民党は惨敗した。今回の選挙の帰趨はどうなるだろうか。

 ところで、選挙ではいつもその投票率の低下が問題になる。最低投票率という概念は公選法上ないので、仮に投票率が10%でも選挙は有効である。前回2015年の統一地方選では、都道府県議会の投票率は平均で45.05%、市町村議会は47.33%だった。かつて地方自治は民主主義の学校と言われ、国政選挙よりも地方議会選挙の方が投票率も高かった。しかし、今は国政選挙の方がまだましという状況となっている。国政選挙で投票率が急降下したのは、55年体制崩壊後の1990代中葉からだが、地方議会選挙は1951年をピークに、ほぼ一貫して投票率が低下しつづけている。投票率が低いのは有権者の関心が低いからの一言に尽きるが、その結果、町村議会では無投票による当選者が増え続けている。前回の統一地方選では373 町村議選のうち、89 選挙が無投票となり、定数の 21.8%に当たる 930人が有権者の審判を受けずに議席を得たという。また、4町村議選で候補者が定数に達しなかった。
 このような地方議会のなり手不足は、人口減少が著しい1000人未満の町村議会で、特に深刻であるという。離島を除いて全国最小人口の自治体である高知県大川村では、人口が400人に満たず、議員のなり手不足から2017年、ついに村長が町村総会の設置検討を表明するに至った。町村総会とは、地方自治法94条の「町村は、条例で、第89条の規定にかかわらず、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる。」との規定に基づき、選挙権を有する住民全員で組織され、議会に代わって同等の権限を行使するものである。この町村総会が設置されたのは、戦後間もなくの東京都宇津木村(人口65人)の一例だけである。したがって、この大川村長の検討表明は、総務省はじめ小規模自治体関係者に大きなインパクトを与えることとなった。
 その結果、総務省の「町村議会のあり方研究会」が早々と打ち出したのが、2018年3月の報告書である。同報告書では、「町村総会の実効的な開催は困難」として、代わりに、少数の専業議員と有権者が参加する「集中専門型議会」と多数の非専業議員が夜間・休日を中心に運営する「多数参画型議会」の2つのタイプが現行議会の存続と並ぶ選択肢として提示された。そもそも議員のなり手不足は、都道府県議会や大中規模市議会に比べて、町村議会の議員報酬が低すぎることにも原因がある。ただ、議員報酬を引き上げることは財政状況から容易でない。その代わりに定数の削減を住民から求められるというのが現実だろう。また、公務員との兼職が公選法で禁じられていたり、地自法や条例で議員の経営する会社や親族の会社にまで請負や委託が禁止されていたりする場合もあり、自営業者が圧倒的に多い町村議会では、議員になるか商売を続けるかの二者択一しかないという問題もある。高齢化が劇的に進む小規模町村では、議員に立候補できる人材がともかく圧倒的に少ないのが現状だ。したがって、現行制度の存続は持続可能性に乏しく、また、報告書が打ち出した2つのタイプも、結局は、議員をバックアップする住民のサポートや議員になろうとする多数の有権者のボランティア的な積極的参加がなければ成り立たない。議員ではなく、報酬もない議会参画員(費用弁償はあるそうだが)や、夜間・休日の議会に連日参加可能な多数の非専業議員を、小規模自治体の住民の中から恒常的に確保することは果たして可能といえるだろうか。
 他方で、実効的な開催は困難とされた町村総会は本当に実現不可能なのか。スイスでは、体育館や教会、役所の大会議室などを会場とし、住民の参加しやすさに配慮して平日夜間や土曜の午後に住民総会を開いているという。問題は参加率の低さで、そのため、総会では審議だけを行い、別途住民投票を行うことや、一定の事柄については総会に代えて住民投票のみで決することにしているという。ただ、いきなり総会にかけるのではなく、事前に住民に議案を提案し、1か月半後に住民総会を開くなど、熟議の時間にも配慮しているのである。スイスの人口は800万人程度で、直接民主制は国政レベルでも実施されている。最終的に決めるのは、議会でも行政府でもなく、主権者である国民という意識が貫徹している。だからこそ国政でも地方自治においても直接民主制としての住民総会や国民投票が可能といえるのかもしれない。翻って日本においても、国政に対する不信から、地方自治体が独自に住民投票を実施するなどの事例も増えている。議会でなければだめとか、直接民主制はプレビシット(人民投票)の危険を招くといった心配だけを考慮するのでなく、ICTやその先のAIの活用も含めた住民がいつでも、どこでも参加できる方法の開発も含めて、住民全員の参加による町村総会の可能性をもう一度探ってみる必要があるのではないだろうか。