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バルカン諸国とEUの東方拡大

月村 太郎 投稿者 月村 太郎 : 2018年2月1日

 冷戦終結後、EU(欧州連合)は、その加盟国を15カ国から28カ国に倍増させた。この間の新規加盟国は、2004年のキプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロヴァキア、スロヴェニア、2007年のブルガリア、ルーマニア、2013年のクロアチアである。更に、EU加盟のプロセスを、トルコ、マケドニア、アイスランド、モンテネグロ、セルビアが歩んでおり、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ(ボスニア)、コソヴォも加盟を望んでいる。新規加盟国の殆どは、旧東欧、旧ソ連諸国である。この間のEU加盟国数の増加を、東方拡大と称する理由である。論者によって意見は若干異なるが、これらの諸国のうちでバルカン諸国は、クロアチア、ボスニア、セルビア、モンテネグロ、コソヴォ、マケドニア、アルバニア、ルーマニア、ブルガリアである。これにギリシャ、モルドヴァを加えれば、バルカン諸国が網羅されることになる(更に、トルコのヨーロッパ部分を足すと、地域としてのバルカン地域もほぼカバーされることになる)。

 バルカン諸国は、EUが1993年に掲げた加盟基準である「コペンハーゲン基準」(民主主義、人権、市場経済など)をクリアするために、非常な努力を続けてきた。奮闘努力中の国もある。バルカン諸国は、EUのソフト・パワーや「メニュー」に期待してきたし、現在もそうである。しかし、2015年夏から秋の難民・移民危機の際にEUが見せた足並みの乱れは、EUの魅力を大きく減退させた。2016年6月の国民投票の結果、EUを支えてきた主要国家であるイギリスはEU離脱を選択してしまった。そして、スペイン、カタロニアの住民投票である。更に、フランス、オランダ、オーストリア、ハンガリー、ポーランドなどでは、「ポピュリズム」勢力といわれる政治グループの台頭が見られる。EUに既に加盟しているバルカン諸国にとって、EUが内部でゴタゴタしているからといって、EUから簡単に離脱する訳にはいかない。EU加盟に費やしたコストはまだ回収されていないし、離脱の面倒な手続き、離脱後の経済的影響を想像すれば、EU離脱は賢明な選択肢ではない。
 他方で、EUにこれから加盟していこうというバルカン諸国については少し事情が異なる。ロシアの影響力が関係する場合も見られる。その典型的なケースとして、セルビアとコソヴォを紹介してみよう。

 
 かつてユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国(ユーゴ)という国があったが、この国は4次にわたる内戦によって解体してしまった。セルビアはこのユーゴの一部であった。そして、コソヴォはそのセルビアの一部であった。コソヴォはセルビアから独立しようとし、独立阻止に向けて軍隊や治安部隊を投入したセルビアに対して、1999年3月から6月にかけてNATOが空爆を行った。コソヴォ内戦である。セルビアはコソヴォ内戦に敗れ、コソヴォには暫定的に国連統治が導入された。コソヴォの処遇に関する交渉に際して、国連安保理決議1244に拘り、国土の分割を認めようとしないセルビアと、内戦に「勝利」したために独立を主張するコソヴォとの間では、立場の違いを解消できなかった。業を煮やしたコソヴォは2008年2月に独立を宣言したが、セルビアはこれを認めておらず、両国間では未だに国交関係がない。
 セルビアはEU加盟プロセスを歩んでおり、2025年加盟という予想もされたりしている。しかし、セルビアには、EU加盟かコソヴォ承認かという「踏み絵」をいずれ踏まされる日が来るであろう。現在のセルビアはロシアとの「蜜月ぶり」を盛んにアピールしており、ロシア製の兵器の輸入もなされている。NATOに空爆されたためにNATO加盟が難しい選択肢であるセルビアとしては、当然かもしれないが、セルビアは、EUのカウンターバランスとしてロシアとの良好な関係を維持したいだろう。
 一方のコソヴォにとっては、ロシアとセルビアのこうした関係から派生する問題をどう克服するかが大きな課題である。何故ならば、ロシアが国連安保理常任理事国であるために、コソヴォは国連加盟すらできていないのである。コソヴォが独立して既に10年が経過しているが、コソヴォを国家承認した国は120カ国程度である。EU加盟国の間でも、国内に独立志向やその可能性が危惧される地域を有するキプロスやスペインを始めとする5カ国がコソヴォを承認していないのである。
 コソヴォ国民における民族構成は、日本外務省によると、アルバニア系92%、セルビア系5%である。少数派のセルビア系は北端部に集まって住んでおり、この地域にはセルビアが行政サービスを提供している。今年1月16日に、穏健派のセルビア系リーダーが殺害された。コソヴォ内戦の解決はまだ先のようである。

 
 日本の各種報道では、同盟国のアメリカ合衆国や近隣の東アジア諸国についてのニュースについつい偏りがちである。確かに、今後のトランプ政権の行方は日本にとって重要だし、成長と変化のダイナミクスを見せる中国の動向にも目配りが必要であろう。しかし、ユーラシアの反対側で何が起きているかを知ることも、劣らず重要なことである。EUとロシアのせめぎ合いは、2014年3月のクリミア併合、その後のウクライナをめぐる緊張、更にシリア内戦への介入に際しても見られた。そこに、アメリカ合衆国も関わっていることは言うまでもない。アメリカ合衆国はユーラシアの東西に関与しているのである。些か牽強付会であるという批判もあるかもしれないが、バルカン地域の動きは、日本の国際関係にも決して無縁ではなく、その影響は以前よりも迅速に、また強く日本にも及ぶ。これもまた、グローバル化による現象のひとつである。


1 国連安保理決議1244の文言の中で、"the sovereignty and territorial integrity of the Federal Republic of Yugoslavia"が問題とされる。ユーゴスラヴィア連邦共和国とは1992年4月にセルビアとモンテネグロによって建国された国家であり、版図にはコソヴォも含まれている。尚、国連安保理決議1244の原文は、国連HPによる(http://www.un.org/en/ga/search/view_doc.asp?symbol=S/RES/1244(1999)、2018年1月18日閲覧)。
2 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/kosovo/data.html#section1(2018年1月18日閲覧)。