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政策最新キーワード

ポピュリズム/ポピュリスト

川浦 昭彦 投稿者 川浦 昭彦 : 2017年10月1日

 このコーナーは「政策最新キーワード」という名称ですので、今回は「ポピュリズム」および「ポピュリスト」という言葉そのものに焦点を当てた議論をしてみたいと思います。
 昨年の米国大統領選挙の過程で、トランプ候補の言動を表す際に「ポピュリズム」という言葉が用いられるようになりました。それはトランプ氏が今年1月に大統領に就任してからも続いています。日本経済新聞社が提供するデータベースサービス「日経テレコン」で「ポピュリズム」という言葉の含まれた新聞記事を検索すると、2016年1月1日~12月31日の1年間に全国四紙(朝日・産経・毎日・読売)では404件がヒットします。2017年について6月までの半年間を対象に同じ検索をしてみると、6か月で既に394件を数えていて、このままのペースであれば、今年通年では昨年の2倍になりそうな勢いです。10年前(2006年)を対象に行った同じ検索の結果は71件に過ぎず、比較的最近の2014年、2015年でさえそれぞれ97件、151件でしたから、政治家としてのトランプ氏の登場が、「ポピュリズム」という言葉の幅広い使用の一因になっていると考えても間違いはないでしょう。

 そもそも「ポピュリズム」とは何を意味する言葉なのでしょう。三省堂『大辞林』(第3版)では、「①民衆の情緒的支持を基盤とする指導者が、国家主導により民族主義的政策を進める政治運動。1930年代以降の中南米諸国で展開された。民衆主義。人民主義。②政治指導者が大衆の一面的な欲望に迎合し、大衆を操作することによって権力を維持する方法。大衆迎合主義。」と説明されています。いずれも理性よりも感情に訴えることで支持を集める政治的態度であるとの解説です。特に②の「大衆迎合主義」であるとの説明では、「ポピュリズム」をかなり否定的に捉えています。実際に「ポピュリズム」を体現する主体を「ポピュリスト」と言いますが、ある政治家を「ポピュリスト」と呼ぶ場合には、そこには批判的感情が込められていると考えられます。
 言葉は生き物である、とよく言われます。言葉の意味が時を経て変化することは驚くことではありません。間違いであるとされた用法が、いつの間にか広く受け入れられるようになることもあります(注)。さらに、もともとは中立的な言葉でも、いつの間にか否定的な文脈に限って使われるようになることがあります。そして「ポピュリズム」についても同様のことが観察されます。そもそも、米国にはかつてこの言葉を名称に含めた「Populist Party」という政党があり、ポピュリズムを政策の基礎としていました。ポピュリズムという言葉が社会で否定的に受け取られていたとすれば、この様な名乗りはしないはずです。19世紀後半には、米国では資本主義が急速に発展するとともに成功者には大きな富が集中するようになり、「金ぴか時代・金メッキ時代(Gilded Age)」と呼ばれました。一方で、まだ政府は経済活動への干渉を行なうべきではないと考えられていたために、貧しい人々は公的な経済的支援を受ける事もできず、その生活は悲惨なものとなりがちで、社会には大きな格差が生まれました。この時期に農産物価格が低迷したことも原因となり、特に農民の多くが困窮を極めることとなりました。「Populist Party」が結成されたのはこの時期で、経済力の過度な集中の排除、通貨増発、累進所得税導入などの政策を提案しました。1892年の大統領選に党として擁立した候補は、小政党ながら一般投票で全体の8%以上もの票を獲得しました。つまり、19世紀後半の米国では、「ポピュリズム」を標榜して政策を議論することは、経済発展の成果をより幅広い国民の間で分配することを求める先進的な態度であったのです。(実際に、この政党が要求した政策は、その後米国のみならず多くの民主主義国で採用されています。)
 ニュースや評論などで目にする言葉には、肯定的であれ批判的であれ、ある程度の「色」がついている場合が多くあります。それは時代背景に依るものかもしれないと考えて、その言葉の使われ方の変遷を調べてみることも興味深いことだと思います。

(注)「こちらは○○になります」という言葉は、数年前には若者による所謂「バイト敬語」だとして批判されていましたが、現在では年齢を問わず幅広く使われるようになり、それに対する論評も以前ほどには聞かれなくなっています。