こちらに共通ヘッダが追加されます。

TOP > 政策最新キーワード

政策最新キーワード

自動運転:安全の分かち合い

三好 博昭 投稿者 三好 博昭 : 2017年4月1日

Google 社のドライバーレスカーの公道実験が開始されて以降、自動運転に世界の注目が集まっている。日本でも、交通事故削減の切り札、高齢者など交通弱者への移動手段の提供、バス・トラック運転手の人手不足と高齢化への対応等との観点から、自動運転に対する社会的関心は非常に高い。

さて、この自動運転、すぐに思い浮かぶのは、人が運転に介在しないパーフェクトな自動運転だと思うが、実は、最近急速に普及している自動ブレーキのようなものも、自動運転の1つとされている。同じ自動運転でも様々なレベルがあるというわけだ。

この自動運転、日本では、交通事故死者数低減を最重要課題の1つとして技術開発が行われている。その交通事故で考えると、自動運転は、とても興味深い性質を持っている。下の図は、2012年に、車と車との間の衝突事故によって生じた人的・物的な損失の量を、人身損傷を負った事故被害者の肉体的・精神面の苦しみも含めて金銭換算したものである。図の中の第1当事者(1当)とは、2人のドライバーのうち過失の重い方を、第2当事者(2当)とは過失の軽い方を指す。過失が同程度の場合には人身損傷程度の軽い方が1当とされる。この図からすぐに分かるのは、1当と1当の車の同乗者の損失額よりも、2当と2当の車の同乗者の損失額のほうが相対的に大きい傾向にあるということだ。これは、一部は1当、2当の定義に起因する現象であるが、特に追突事故ではそれが顕著である。

ところで、この自動運転の装置は誰が購入するのか? 追突事故で考えると、(多くの場合1当になる)後続車が自動ブレーキを自車に搭載していることで事故が避けられる。そして、この行為によって、後続車には、前方車に衝突していた場合に生じていたであろう自車の人的・物的損失が避けられるという便益が生じる。一方、後続車が自動ブレーキを搭載していることによって、前方車は後方から追突されなくて済む。そして、それによって回避できる前方車の損失の大きさは、後続車のそれよりもずっと大きい。そして、ここで留意すべきは、前方車には、自動ブレーキを搭載していなくてもこの便益が生じる点である。以上を、少し角度を変えて言い換えると、自動ブレーキを搭載する車は、自車以外の車に、大きな価値を「分かち合い」ながら走っている、ということになる。

このような現象は、後続車に搭載されたカメラやレーダーが前方車を検知して自動ブレーキを作動させるような技術で生じる。実は、同じ追突事故を、後続車と前方車との間の通信で防止するということも技術的には可能である。この場合は、衝突が避けられるのは2台の車が共に装置を搭載している場合だけであり、上述したような装置を搭載していない車への安全の「分かち合い」はゼロとなる(多重衝突事故の場合を除く)。一方、装置の搭載車は、搭載車が増えれば増えるほど、より多くの事故が回避できるようになる。上記の場合と対比させて言えば、装置を搭載する車は、仲間うちに安全を「分かち合い」ながら走っている、ということになる。

以上、追突事故を例に説明したが、このように、自動運転は、車と車の事故で考えれば、「安全の分かち合い」の装置である。しかし、「分かち合い」の相手や大きさが、使う技術によって異なるのである。こうしたことを考えた時に、自動運転を普及させるためには如何なる政策的介入が必要になるのかというのが、わたくしの目下の研究課題の1つである。ご関心があれば、一緒に考えてみませんか?

         
<2012年の車両相互事故による損失額>

図.png

注)公益財団法人交通事故総合分析センターの交通事故集計ツールで集計した人身損傷程度別被害者数に、死亡:2億3,403万円、重傷:1,747万円、軽傷:178万円を乗じて損失額を算出した。この「死亡」「重傷」「軽傷」の損失額は、それぞれ、内閣府政策統括官『平成23年 交通事故の被害・損失の経済的分析に関する調査 報告書』表6-4の「死亡」「後遺障害」「傷害」の損失額(慰謝料分を除外しない数値)を、GDPデフレータを乗じて2012年値に換算したものである。