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自衛隊法はネガティブリストとすべきか

武蔵 勝宏 投稿者 武蔵 勝宏 : 2013年12月2日

 安倍晋三首相の肝煎りで再発足した安保法制懇談会は2013年内にも集団的自衛権の行使容認の報告を提出するとみられている。他方で同懇談会の主要メンバーでは自衛隊法のポジティブリスト(根拠規定)をネガティブリスト(禁止規定)に転換すべきとの認識で一致しているとの報道もある(『産経新聞』2013年8月17日)。

 そもそも自衛隊法がポジティブリスト形式(法律に明記されていない活動を行うことができない)を採用したのは憲法9条の制約のもとで通常の軍隊の保持を禁止された日本政府が朝鮮戦争勃発時の国内の警察力強化として警察予備隊を設置したことに始まる。したがって警察予備隊とその後継機関である保安隊の任務は治安の維持であり、警察法に準拠したポジティブリストが採用されたのである。冷戦による東西対立が進行する中、独立を回復した日本は、自ら防衛努力を行うことが求められ1954年に自衛隊を発足させたが、その行動の根拠を規定する自衛隊法では前身の保安庁法でのポジティブリスト方式がそのまま継承されることとなったのである。国の防衛が主な任務となった自衛隊法制定時に自衛隊の行動をネガティブリストとして規定することも理論的にはあり得た。

 しかし、当時の世論は軍隊に対して強い批判的姿勢を示しており、自衛隊の位置づけをめぐる改進党(軍隊的立場)と自由党(警察的立場)の間の政治的妥協から、軍隊に近づくネガティブリスト化は現実性に乏しかったと思われる。その結果、今日に至るまで自衛隊は憲法に違反しない活動であっても、自衛隊法にその根拠規定を持つ活動以外は行うことができないという制約下におかれてきたのである。

 自衛隊法が制定されて約60年に達しようとする今日、自衛隊に対する国民の批判的姿勢は影を潜め、自衛隊が違憲とする政党は国会内でほとんど勢力を持っていない。安保法制懇のメンバーが今こそ自衛隊法の転換をと唱える姿勢は集団的自衛権の行使解禁の論理と一致する。

 しかし、今一度我が国がなぜ立法政策として自衛隊法をポジティブリストとして制定したかの立法事実に立ち返らなければならない。平時において我が国のシビリアンコントロールは揺るぎないものがあり、制服組による文民の指揮監督を無視した独断先行は考えられない。しかし、いったん有事になった場合に制服組の末端に至るまで文民の指揮監督が貫徹されるとの保証は我が国の戦前、戦中の歴史を振りかえった場合どこにもない。諸外国では交戦規定において文民統制が担保されると言うが、日本ではこれまで交戦規定に相当するものが国会においてすら公表されたことはなく、ましてや国民の目に触れることは一度もなかった。だからこそ、誰もが確認し、可視化できる法令で自衛隊の行動を縛るポジティブリストが求められたのだと考えられる。一定の行為だけを禁止し、禁止規定のない活動は自由に行使できるというネガティブリストでは自衛隊の活動に対する民主的統制を行うことはできない。もちろんありとあらゆる事態を想定して事前に法律に規定することが困難であり、法律の改正に相当な時間が要するため、法律に規定のない不測の事態に機動的に対処できないという批判には肯定すべき点がある。その点については新たな事態が生じる度に特別措置法を制定するのを見直し、自衛隊の海外派遣についての恒久法を制定することで対応すればよい。またすべてを法律に規定しなくとも、法律の委任を白紙委任にならないようできるだけ丁寧な委任規定を置いて政省令に委任すれば機動性や迅速性を一概に損なうこともないと思われる。

 自衛隊法のネガティブリスト化を主に主張しているのは制服組出身者らであり、そこでは軍事的合理性を組織の優先事項とする軍人としての立場が投影されている。しかし、我が国には他国と異なる過去の歴史の教訓があり、また諸外国においても軍人のみならず政治指導者の攻撃的戦争への志向に対して議会を中心とする民主的統制を強化しようとする動きがある。

 議会のひいては国民の民主的統制を骨抜きにしかねない自衛隊法のネガティブリスト化は利益よりも弊害の方が上回り、我が国が取るべき立法政策ではないと思料するが、いかがであろうか。