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京都初! 履修証明制度

武蔵 勝宏 投稿者 武蔵 勝宏 : 2010年10月27日

 履修証明制度とは2007年の学校教育法改正により、大学の社会貢献として正規の学生と並んで社会人などの多様な学習ニーズに応えることも大学の責務とされたことを受け、大学が社会人等の学生以外の者を対象とした特別の課程を編成し、これを修了した者に対して履修証明書を交付することを制度化したものである。大学が提供する特別の課程は、通常のカリキュラムの授業科目を中心とすることも、授業科目でないものを中心とすることもできる。また、履修証明のためのプログラムは社会人向けに開設されるものであるが、学生や科目等履修生も履修可能である。授業科目を学生や科目等履修生が受講した場合には単位を認定することが可能なため、学生にとっては学位とともに履修証明を取得できるというメリットがある。

 このような履修証明制度が制度化された背景には、社会人の生涯学習に対する意欲の高まりと実際に身に付けた知識を社会的に評価する証明発行の要請が合致したと考えられる。欧米では、こうした大学の履修証明(Certificate)は早くから制度化されてきたが、特に、ヨーロッパでは大学における履修証明が職業訓練や再教育・研修を受けた求職者の職業能力を証明する仕組みとしても広く活用されるようになっている。これに対して、日本でも、履修証明を職業能力の資格として活用しようとする制度がスタートしている。厚生労働省は、2008年よりフリーターや新卒者などの職業機会に恵まれないものへの就職支援の一環としてジョブ・カード制度を実施している。このうち、企業側が訓練生を受け入れることを中心とする職業能力形成プログラムに加え、大学等における実践型教育プログラムの履修者に履修証明を発行し、これをジョブ・カードの職業能力証明書に活用しようというのが政府の目標である。政府は新成長戦略でジョブ・カードの取得者を300万人にするとしているが、実際には導入後も30万人程度に利用者がとどまっていて、行政刷新会議の事業仕分けの対象に同カードが取り上げられることとなった。しかし、新卒者の就職難が叫ばれ、緊急人材育成・就職支援対策として導入された各種職業訓練機関や専修学校等による給付金付き基金訓練ですら短期的かつ初心者向けという限界から厳しい雇用情勢の下で必ずしも正規雇用の増加につながっていない実態がある。即効性はないかもしれないが、専門的かつ継続的に事業実施に取り組むことが可能な大学がアカデミックと職業訓練の架橋としてこの実践型教育プログラムに組織的・体系的に関与することの意義は少なくない。特に、学生のインターンシップや就職支援などを通じて、企業や自治体とパイプを持っている政策・経営系学部・大学院への期待は大きいといえる。
 翻って、同志社大学では総合政策科学研究科が京都府内の8つの公共政策系大学と連携して、京都で初の大学院レベルの政策系履修証明プログラムを2010年度より開始したところである。まず、「地域公共マネジメント」履修証明プログラムは、地域の公共的課題を具体的に解決するための政策の企画立案や実施、公共的活動のコーディネートを適切に運用・実践する能力の育成を図ることを目的とし、カリキュラムでは、地方財政や福祉、都市などの政策課題への具体的対処能力や地場産業の後継者育成、地域での様々な公益的活動への参加を実践する地域インターンシップなどの科目が提供される。次に、「食農政策士」履修証明プログラムは、わが国の食農分野における公共政策のイノベーションやこの分野の社会的課題解決に貢献するソーシャル・ビジネス等を担う有為の人材を育成することを目的とし、カリキュラムには、現代有機農業、自立・自給型生活、食育、オーガニック生活・社会デザイン、地域食農インターンシップなど現場のフィールドを重視した実践型の科目が多く含まれている。いずれのプロクラムも120時間以上の履修が義務付けられ、共通科目としての地域公共政策特別セミナーでの研修成果の報告を経て履修証明書が大学長名で交付される。初年度には、在学生12名、学外の科目等履修生13名、合計25名(延べ数)が登録し、それぞれ意欲的に学習・研究に取り組んでいるところである。
 すでに言及したようにこのプログラムの成否は単に受講生の多寡にあるのではなく、受講した各人が修得した知識や技能によってその職業能力を高め、就職や起業などで自己実現を図ることができたか否かで評価されるべきものであろう。また、本プログラムは、文部科学省の戦略的大学連携支援事業の一環としてスタートしたため、その事業実施に当たっては、参加各大学はもとより地元自治体や企業との連携も構想されている。初年度の登録者の半数近くが京都府の緊急雇用対策基金を活用した「京の公共人材」未来を担う人づくり推進事業によって採用された社会人で占められているように自治体と大学のパートナーシップによる人材育成が実践されているといえよう。今後は、さらに地域の公益的活動や地場産業の振興に求められる人材を大学側が送り出せるようなプログラムを地域の産官学民との連携によってさらに開発していくことが不可欠であると考えられる。
 その具体策として、京都府内8大学による「地域公共人材大学連携事業」では各大学の履修証明プログラムの履修に接続するキャップストーンプログラムの開発に取り組んでいる。キャップストーンとは米国では「大学院での勉強の最後の総仕上げのプログラム」を意味するが、地域公共人材大学連携事業では、現場での体験・課題解決型の科目として位置づけ、京都府内の各自治体、NPO、経済団体との連携による現場実践型の参加型教育プログラムを2011年度から試行予定である。さらに、こうした履修証明とキャップストーンを参加各大学で積み上げていくことによって大学院修士の学位に準じた実務型の地域認定資格として「地域公共政策士」を修了生に付与することも計画されている。これらの多種多様なプログラムを推進していくためには、まず、費用的な面での受講生への負担の減免、支援等措置が不可欠であり、再チャレンジを目的とする受講生への政府による支援が求められる。類似の支援制度として教育訓練給付制度があるが、雇用保険の被保険者資格に該当しないものが少なくない。また、学生の実習や参加型研修の受け入れ先となる自治体や企業側のコスト負担を軽減するためには、派遣側と受け入れ側の双方にメリットのあるプログラムを開発する必要がある。そこで、大学が地域内にほとんど立地しておらず、研究者からのアドバイスや地域づくりの担い手となる学生に対するニーズの高い地域の自治体や企業、NPO等と大学の連携を広域的に進めていくことが今後の課題となろう。そこでは、大学が「地域・社会の求める人材養成」を通じて地域活性化に貢献する「知の拠点」となることが期待されているといえよう。