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政策最新キーワード

「核なき世界」の逆説

柿本 昭人 投稿者 柿本 昭人 : 2009年7月9日

銃を手にした男が立っている。
空に向かって、銃を連射する。
男は聴衆に向かって叫んでいる。
「銃によっては、何も生み出されません」
「銃所持の拡大は、ますます多くの殺人を引き起こすでしょう」
「銃のない世界を作りましょう」
「銃を所持する人、今ここで銃を差し出しましょう」
「隠し持っても露見します。宇宙からも監視して、写真に撮られています」
万雷の拍手。
「私は銃廃絶の先頭に立って行動します」
男は話の締めくくりに
また銃を連射する、バリバリバリ……。

「米「核なき世界」を目標に提示――抑止力強化の思惑も(ニュースの理由)」
2009/04/17『日本経済新聞』

 「核のない世界」を目指す――。冷戦時代は夢物語にすぎなかった目標をオバマ米大統領が現実の政策課題に掲げた。だが、高い理想の裏側では核大国としての地位を手放さないまま、核軍縮をリードしようとする米国の深慮遠謀ものぞく。
■  ■
 二〇〇七年初め、核廃絶に強いこだわりを持つオバマ大統領の目を引く論文が米紙に掲載された。「核兵器のない世界を」と題した提言の筆者はキッシンジャー、シュルツ両元国務長官にペリー元国防長官ら。
 骨子は(1)核保有国による核戦力の大幅縮小(2)同盟国、友好国での米ロ戦術核兵器廃絶(3)米国の包括的核実験禁止条約(CTBT)批准達成(4)兵器用核分裂物質の生産全面停止――などである。
 論文を基にしてオバマ陣営で核軍縮について意見集約した結果、「包括的政策として核の不拡散体制を強化する案が浮上した」(政権関係者)。焦点となったのは将来の米国の核戦力レベルをどう維持するかである。
 当初オバマ陣営は新型の核弾頭(信頼性のある代替核弾頭=RRW)を導入する可能性を探った。RRWは核実験をしなくても開発可能で技術的信頼性が高いとされる。核軍縮と引き換えにRRWを導入できるなら、核軍縮以降も米国の核抑止力は強化が可能だ。
 米ロ双方の保有核弾頭数を一気に一千発以下にする案やCTBT批准に米軍部、共和党保守派は元来、懐疑的。RRWはこうした反発を封じ込める政治的取引でもある。
 思惑通りに進めば、米ロが保有する核弾頭は数百発レベルに減らせる。余勢を駆って、イラン、北朝鮮などに核不拡散に向けた圧力を強化。同時に中国など他の核保有国も含めた多国間核軍縮交渉を提唱する。それがオバマ陣営が当初、思い描いていた「核なき世界」へのシナリオだった。
■  ■
 しかし、この構想で要となるRRWについては、敵対国に対する先制核攻撃を辞さないとする「ブッシュ・ドクトリン」と一体と見なす空気が支配的。米議会・民主党も開発予算に歯止めをかけるなど慎重論が大勢だった。オバマ大統領も三月、RRWの開発中断を決め、新型核弾頭の議論は振り出しに戻った。
 こうした経緯を踏まえ、米防衛分析研究所のウェルチ所長(元米空軍参謀長)は新たな妥協点として「RRWに代わるRRR(=再生・代替・改造可能な弾頭)と呼ばれる新型核弾頭の開発計画が浮上しつつある」と指摘する。既存核兵器の更新維持に比重を置いたRRR導入を掲げ、オバマ政権は「核を使った先制攻撃などとは無縁」との立場を表明する――。いわば“看板”を掛け替えて核軍縮に一歩踏み出すシナリオである。
 現時点でCTBTの批准問題などとRRRを巡る駆け引きにオバマ政権がどのように対処するのかは不明だ。「核を使用した唯一の保有国としての道義的責任」にも触れたオバマ大統領への期待は日本でも高まる一方だが、「核なき世界」の実現には多くの曲折があることは間違いない。(編集委員 春原剛)

ONE DIRECTION!
この記事は、その<逆説>に目を向ける。カント「啓蒙とは何か」が、フリードリヒ二世の「諸君はすきなだけ、何事についても意のままに議論せよ、ただし服従せよ!」に逆説を見出したように。

ここで『チャタレー夫人の恋人』で有名なD・H・ロレンスの『アメリカ古典文学研究』〔D. H. Lawrence, Studies in Classic American Literature, 1923〕という、いささか奇妙な本のことを思い出してみるのもよかろう。彼は、ホイットマンの詩に疑いの目を向ける。

「方向は一つだ!」アメリカが叫ぶ。そしてアメリカもまた、自動車で走り出す。
……(中略)……
「一つのアイデンティティ!」。民主的な「一団」〔En Masse〕が、後続の車の中から声を揃える。車輪の下に引っかけられた死体のことなど気にもせず。

「車輪の下に引っかけられた死体」となるのは、オバマ大統領に賛辞を送る人々だろうか。はたまた、<マクガフィン>という名の想定上の大量破壊兵器保有者たちであろうか。

ラクイラ・サミットが始まった。「車輪の下に引っかけられた死体」は、マクガフィンとは違って、すぐに見つかるはずなのだが。