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政策最新キーワード

究極の少子化対策とは

田中 宏樹 投稿者 田中 宏樹 : 2009年3月2日

  いわゆる「1.57ショック」以降、出生率の恒常的な低下を懸念する世論に後押しされる形で、政府はここ十数年、少子化対策に取り組み続けてきた。1994年の「エンゼルプラン」、99年の「新・エンゼルプラン」、そして05年の「子ども・子育て応援プラン」と、その対策は深化・拡大し、現状において、出産期、低年齢児期、就学児童期と、子どもの成長にあわせた切れ目のない政策パッケージが用意されるまでに至っている。
  それにも関わらず、政府の少子化対策は、社会的関心の喚起および政策効果ともにいま一歩の感がある。それは、なぜだろうか。理由として、少子化対策の正当性や妥当性に対する社会の理解や合意が十分得られていないこと、つまり、なぜやるのか、どうやるのかをめぐる政策論が成熟していないことがあると考えられる。
  「数ある政策課題の中で、少子化対策の優先順位は?」という問いかけに、どのくらいの国民が「高い」と答えるだろうか。出産・育児を望む世帯にとっては、切実な問題であることは間違いないが、それを望まない世帯、あるいはそれを終えてしまった世帯にとっては、差し迫った問題と認識されないかもしれない。出産・育児は個人の選択にまつわる問題であり、政策で方向づけること自体に違和感を抱く人もいるだろう。
  しかし、少子化が「産み、育てない」ことを個人が選択した結果ではなく、「産み、育てられない」ことに起因したものならば、それを放置することは「機会の平等」に反する。結婚持続期間別の平均出生児数の推移をみると、近年、結婚0~4年目の夫婦でわずかながら出生児数が増加している一方、結婚5~9年目の夫婦では出生児数が減少している。夫婦の平均出生児数が、72年以降2.2人とほぼ横ばいで推移している状況を勘案すれば、出産・育児をためらう中堅夫婦世帯への政策重点化には意味があり、一定の効果も期待できるはずだ。少子化を非婚化・晩婚化のみの帰結と捉えるのは、早計といわざるを得ない。

  少子化対策のもつ意義の1つは、子どもが持つ「正の外部性」である。世代間扶養を前提とする社会保障制度のもとでは、現役世代・(前期)老年世代ともに将来世代の誕生から恩恵を被るので、出産・育児世代を政策で支えることは、社会全体にとって厚生の改善につながると考えられる。子どものいない現役世帯、子育てを終えた老年世帯も、少子化対策の費用を負担することに経済合理性があることが、もっと強調されてもいいはずだ。
  例えば、仕事と育児の両立に迫られる女性にとって、保育の充実や多様化、学童保育の拡大といった現物給付型のサービス提供は、自らの機会費用を引き下げることにつながる。また、経済的理由から出産・育児をためらう世帯に対して、乳幼児への医療費助成や児童手当の支給といった現金給付型のサービスを実施することは、出生率の回復にプラスに働くはずである。出産・育児の社会的効用が過小評価される中、現状の少子化対策は量・質ともに不十分なものにとどまっているといわざるをえない。

  ただし、少子化対策の充実を図る上で、見落とすべきでない重要な点が1つある。それは、地域間の出生率格差である。都道府県別の合計特殊出生率には、現状において、最大の沖縄(1.75)と最低の東京(1.05)との間に0.7の開きがある。少子化の進行状況に地域間で開きがある中、国主導の一律の両立支援策や経済的支援策の実施では、地域の育児支援ニーズとのミスマッチが生じ、それへの配慮を欠いた少子化対策では、単なるバラマキになる可能性がある。
  現状の少子化対策では、国主導で一律の出産・育児支援サービスが提供され、地方自治体の権限や財源の自由度が制約されている。女性の就業状況や親との同居の有無など、働きぶりや暮らしぶりは地域毎にまちまちであり、それが出生率の地域間格差を生んでいる可能性は高い。政策対応の柔軟性と機動性の観点からも、少子化対策の権限・財源の分権化を進めるべき時期にきていると考えられるのだ。
  その際、問題となるのは、若年層の大幅な都市圏への移動が想定される現実を踏まえれば、地方圏の自治体に少子化対策に積極的に取り組むインセンティブを期待することは難しいということだ。地方圏で育った子どもの持つ外部性が、将来の人口移動を通じて、都市圏に波及する可能性があることを考慮すれば、ひも付きではなく、使途の自由度の高い少子化対策の財源を、国もしくは都市圏から地方圏に移転する仕組みが検討されてしかるべきであろう。
  ただし、少子化対策実施の主役となる自治体には、今以上の責任と構想力が求められるのはいうまでもない。例えば、現住民の出生率回復のみならず、若年層の移住・定住策を進めることによって、将来住民の出生率回復を視野に入れた「究極の少子化対策」も検討されるべきではないだろうか。地域の雇用や住宅政策などを、広義の出産・育児支援策と捉える視点が求められよう。