こちらに共通ヘッダが追加されます。

TOP > 政策最新キーワード

政策最新キーワード

文化経済学から文化政策へ

井口 貢 投稿者 井口 貢 : 2007年8月1日

固有価値へのまなざし、生活の芸術化、共感・協働と協育
心豊かに、そしてより良く生きるために求められるのが、健全な正の「文化政策」である。負の文化政策とは、かつて戦前に展開されたナチズムや翼賛体制に見られたような、権力による文化統制などはそれにあたるだろう。それらと決別し、さらには薄っぺらな文化行政とも袂を分かつためにも、市民一人一人が主体性をもって、地域社会のなかで生きていく、あるいは生きているのだという強い意志に裏打ちされた文化政策が求められるのである。

文化政策の導きの糸となる、知の枠組みのひとつに「文化経済学」がある。100年以上も前にイギリスで活躍した社会改良家であり、芸術経済学を唱えたジョン・ラスキンと装飾芸術家であったウィリアム・モリスの言説が、文化経済学の底流を成す。彼らは、産業革命を契機に社会のシステムのひとつとなった大量生産大量消費による弊を憂い、単純な機械的労働が人々の生甲斐や創造力を剥奪していると考えた。その副産物が、安価で個性を殺した工業製品で、それは使い捨てられる運命をたどっていくものでもあった。(現代の社会状況と酷似している部分もあるだろう。)決して人から強要されない創造的で自由な社会活動こそが、人間性を高め掛け替えのない本来の価値を創出していくのである。彼らは、これを「固有価値」と呼んだ。そして固有価値を認め評価することのできる、すなわち豊かな享受能力を養うことの必要性を訴えた。

「生活の芸術化」とは、人々の享受能力を高めるための生き方の流儀といってもいいのかもしれない。それは、身の回りや暮らしを、著名な芸術家の手による高価な芸術品で囲んで暮らすことを勧めるものでは決してない。大量生産による工業製品と対局を成すような、名もなき職人がつくった生活雑器に対しても、そこにふたつとない固有価値を認め、愛着をもって使い続けていくことが暮らしの知恵を生み、ひいては持続可能な暮らしへのヒントを導き出すのではないだろうか。すなわち、私たちが住まう地域のなかで、地域の固有価値とくらしを支える人々の生業に矜持をもって、美しく暮らしていくことこそが、生活の芸術化なのではないだろうか。そしてその暮らしを、持続可能なものとするために必要なのが、地域に暮らす人々への「共感」であり、共に人と地域を育もうとする「協働」への意思である。これを「協育」と呼んでみたいと思う。文化政策のフィロソフィーとは、つまるところここにあるのではないだろうか?